忠犬カノジョとご主人様
全然大丈夫。
だったはずなのに。
タイプする指がピタッと止まった。
「何してんだろ、私……」
今日誕生日なのに、残業して、彼氏に祝ってもらうこともできずに25歳をむかえるなんて。
せめてLINEでもいいからおめでとうの一言でも言って欲しかった。
今まで忙しくて寂しい思いをしてた日々も、今日のおめでとうの一言で埋まれる気がする、そう思って毎日働いてきたのに。
話しかけたのも、告白をしたのも、同棲を提案したのも、全部私からだった。
いつも受け身なあなたから、私はいつ愛情を感じ取ればいいのでしょう。
それとも何も見返りを求めずにただあなたに尽くすことが従順だと言うのなら、私は本当にあなたの犬でしかない。
でも私は、こうなることを十分に予想していた上で、あなたを好きになったから。
好きになった方が負けだってこと、本当に今実感してるよ。
「双葉さん!」
「え……」
パソコンの前で顔を覆っていると、あの明るい声が静かなオフィスに響いた。
……新人の八神君だった。
息を切らしている様子で、パチッとオフィスのあかりをつけて中に入ってきた。
「すみませんお仕事中、忘れ物しちゃって! 邪魔しないようすぐ消えますんで!」
どうやら忘れ物をしてしまったらしく、終電ギリギリでとりに来たようだ。
とても焦っている様子なので、相当ギリギリな時刻なのだろう。
彼はさっと忘れ物を取って、お疲れ様です! と言ってエレベーターに駆け込んでいった。
私は笑顔で手を振った。良かった、もう少しで泣き顔を見られるところだった。
そう油断していると、八神くんがひょこっとオフィスに再び顔を出した。
「何、まだ忘れ物?」
「あの双葉さん! お誕生日おめでとうございます!」
「え……」
「あと5分でしたね! さっきFBのタイムライン見て知って! 今日言えてよかったで……」
「ありが……」