忠犬カノジョとご主人様
彼は一瞬驚いたように目を丸くしていたが、喫煙所に集まっていた人たちの視線を感じたのか、すぐに私の肩を抱いて外に出た。
そして、少し困ったように首に腕を回し、“今日は金曜日だし、予約なしで入れるお店あるかな……”と、スマフォをいじりだした。
え? もしかして本当に一緒にいてくれるの?
予想外の行動に戸惑っていると、ソラ君は私のアホ面を見て呆れたように溜息をついた。
「……家どこ?」
「え」
「家、方面」
「ま、真野上駅! 山下線!」
「じゃあ真野上にしよう。とりあえず行けばどこか空いてるでしょ」
「え、え」
そう言うや否や、ソラ君はタクシーを止めて私を押し込んで、「真野上駅まで」と淡々と目的地を告げた。
私はこの状況に脳がついていけていなくて、頭の上にはてなマークをいくつも浮かべていた。
そうこうしている間にソラ君はどこかに電話をし始めた。
「ええ…、あと5分くらいで着くと思うのですが……、はい。2人です……海空です……はい、できれば座敷で」
え、もしかしてもうお店を探して予約してくれているの……?
さっきは行けばどうにかなる、なんて言ってたのに……。
あまりの段取りの良さに唖然としていると、電話を切ったソラ君が「座敷でいい?」と聞いてきた。
私がこくこくと勢いよく頷くと、「どのくらい待ってたの?」と、ソラ君が私の足元を見つめながら言った。
告白する為に新しくおろしたパンプスは、まだ全然自分の足に馴染めていなくて、激しく靴擦れを起こしてた。
え、もしかして、靴擦れに気付いたからタクシーにして、席もお座敷にしてくれたの……?
「お、恐ろしい……」
なんだか完璧すぎて、今やっとこんなすごい人に告白してきた自分が恥ずかしく思えてきた。
身の程知らず、とはこのことか……。
私は楽しいデートの思い出どころか、むしろ顔面蒼白であった。
なんだか急に、今まで自分がしてきたこと全てが恥ずかしくなってきた。