忠犬カノジョとご主人様
……諦めよう。本当に。
こんなすごい人と今から2人でお食事できるんだよ?
もうそれで十分じゃないか、双葉クルミ。
私はそう自分に言い聞かせて、今までのソラ君に対する想いをぎゅっと胸の中に閉じ込めた。
「……双葉さんって日本酒とか飲めるの?」
「えっ、まあそこそこ……」
「………」
「すみませんカクテルとかサワー系しか飲めないです」
「……ふつうそうだよね。ごめん、ここ日本酒推してるお店だから、あんまり女性が飲みたそうなの無いけど……」
「え!! 全然、大丈夫です!!」
着いたお店は、和食がメインの落ち着いた居酒屋さんだった。
個室のお座敷に案内され、私を傷めつけていたパンプスを脱いで、やっと解放された頃。
ソラ君は口元を手で覆って、少し気まずそうにメニューを眺めていた。
私の無理なお願いに付き合ってくれただけで床に頭こすり付けて土下座するほどありがたいのに……。
「ソラ君は……、お酒好きなんですか?」
「ふ、なんで敬語」
「あ、なんかつい緊張して……」
「好きだよ。日本酒だと獺祭とか新政とか……って言っても分かんないよね。飲み物決まった?」
「あ、じゃあ白桃サワーで」
「お腹空いてる?」
「最近夏バテでそんなに……」
そう言うと、ソラ君は店員さんを呼び止めて、白桃サワーと何だかよく分からない日本酒と、さっぱり系の料理を適当に注文してくれた。
好きなのあったら次適当に頼んで、とメニューを渡された。
何から何までやってくれるソラ君に、私は圧倒されるばかりで、なんだか話すことが見つからなくなってしまった。
いつもはウザいくらい絡みに行ってるのに……。
いざこうやって女の子扱いされて二人っきりになると、何を話したらいいのか分からなくなる……。
しかも私はついさっきこの人にふられた訳で……。
そ、そうだよ、私ソラ君にふられたんだよね……。
突然現実を思い出して、私は分かりやすく落ち込んだ。