忠犬カノジョとご主人様


「なに、テンション低いじゃん」

「ソラ君に4回ふられたこと思い出して……」

「それは落ち込むね」

「ですよね……」

「まあ飲みなよ」

「ありがとうございます……」


届いた白桃サワーで、ソラ君と一体何を祝したのか分からない乾杯を交わした。

ソラ君は店員さんが置いて行ってくれた日本酒の瓶を見て、銘柄や産地を興味深そうに読みながら、美味しそうに日本酒を飲んでいる。

全く緊張している様子もないし、気まずそうな様子もない。

それはつまり、私をふったことをなんとも思っていないと言うわけで……。


「あの……最後のお願いがあるんですけど」

「なに?」

「正式に、もう完全に諦められるように、私をふってください」

「……どれくらい直球で? ストレートに言っていいの?」

「じゃ、若干優しめで……」


ソラ君が詰め寄って質問をしてきたので、私はかなり怯んだ。

だってソラ君は、いつも「ありがとう」しか言わなくて、完全にはふってくれないんだ。

せめて「ごめん」という言葉も添えてくれれば、私はちゃんと諦められるのに。

一瞬気まずい空気が部屋の中を漂った。

ソラ君は、日本酒を飲むことを止めて、じっと私の顔を見つめてきた。


……なんて言われるんだろう。

仕事以外にかまけている時間が無いとか、タイプじゃないとか、実は彼女がいるとか……。


「……彼女と別れたばかりなんだ」


……でも、答えは、予想したうちのどれにも当てはまらなかった。


「社会人になってわりとすぐに。俺は仕事が一番大事だった。でも彼女はそれが不満だった。自分を一番大切にして欲しかった」

淡々と、まるで他人事のように過去のことを語るソラ君。

私は、何も言葉を発せずに、ただその話を脳内に流し込んだ。

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