忠犬カノジョとご主人様
「仕事を最優先する。この考えは曲げられなかった。彼女はそれを理解してくれなかった。じゃあ別れようって言ったら、今度は半狂乱で俺の人格や生き方を根っこから全否定して罵倒した」
「そ、そんな……」
「今まで抱えていた不安や不満も全部泥のように浴びせられた。俺は、俺と付き合ったことで、ここまで彼女を追いこんでしまっていたことが怖くなった」
「………」
「もうあんな思いをするのもさせるのも、こりごりなんだ。はっきり言って、今の俺には『恋愛』ってやつはただの負担でしかない。だから君の思いも負担でしかないんだ」
―――バッサリと、はっきりと、ソラ君が“負担”という言葉で私の思いを切った。
私は、彼の過去を聞いて、何も言葉が出なくなってしまった。
でも、代わりに、ぽろぽろと涙が零れ落ちた。
「ぞ、ぞんなごとが、あっだんだね……っ」
「え」
「価値観のズレって奴だから、彼女ざんのことを完全に否定はできないけど、でも、辛かったよねぇっ……」
ソラ君は勝手に泣きだした私を見て最初物凄く動揺していたけど、冷静にチェイサーを店員さんに頼んで私に渡した。
「酔うと泣くタイプか……」
「酔っでないですう」
「え、マジで泣いてんの?」
「ぐずっ……、なんか、そんな辛い話をさせてしまったことも申し訳なくてっ……」
「……」
ソラ君は暫く絶句していたが、殆ど分からないくらい小さく吹きだした。
「変わってるね、双葉さんって」
「ぐずっ……」
「なんか悪徳な商法に引っかかりそうだよね。俺が営業だったら君みたいな人本当ちょろいよ」