忠犬カノジョとご主人様
ソラ君の笑顔が見れたのは一瞬だったけど、変な人だって思われてしまったけど、でも、胸がきゅんとしてしまった。
もう諦めなくちゃいけない人なのに。
そう思うと何だか切なくって、今度は胸がちくっとした。
こんなに分かりやすいほど人を好きになったのは、本当に初めてかもしれない。
……その日は、ソラ君が機嫌よく色々な話をしてくれて、今まで住んだことのある国の話とか、日本に初めてきた時の話とか、沢山のことを教えてくれた。
私はそれがすごく嬉しくて、ずっとニコニコしてた。
ソラ君は実はこんなに話してくれる人なんだって、知らなかったよ。
こんなに素敵な思い出最後に貰えるとは、思わなかった。
そうしているうちにあっという間に2時間が過ぎて、そろそろ帰ろうか、ということになった。
お会計は殆ど俺しか飲んでなかったから、という理由でソラ君が全部済ませてくれて、私はもう頭が上がらなかった。
店の外に出て、駅まで一緒に歩くと、何だかさっきまでの時間が夢だったんじゃないかと思ってきた。
帰りたくない。もっと一緒に居たい。ソラ君が大好き。
だけど、さっきの彼の少し苦しそうな表情が、頭をちらついた。
“今の俺には『恋愛』ってやつはただの負担でしかない。だから君の思いも負担でしかないんだ”
……負担には、なりたくない。
迷惑だって分かってるのに、自分の気持ちを押し付けたら、ソラ君に嫌われちゃう。
でも、ソラ君が好き。大好き。もっと彼のことを知りたい。
この気持ちを冷ますためには、暫く彼から離れないと、無理に決まっている。
たまーにこうやって他愛もない会話をして飲めるようなお友達になりたい。もう4回ふられた私が、次に目指す目標はそれ。
だから、なんの下心も無しにソラ君に近づけるようになるまで、彼とは距離を置こう。
私は、自分の気持ちを押し殺して、そう決心した。