忠犬カノジョとご主人様


「じゃあ、また月曜、会社で」

「うん! 今日は私の最後の想い出づくりに付き合ってくれてありがとう!」

「………」

「おかげで、ちゃんとソラ君のこと諦められそうだよ」

「………双葉さん、あの、」

「本当にありがとう! あと今まで付き纏って、ごめんね!」


―――悲しくって、涙が出そうになったから、私は強引に会話を終了させてソラ君に背をむけた。

頑張ろう。うん。仕方ないんだ。諦めが肝心な時もある。

これ以上しつこくしてソラ君の負担になってしまったら、私はもう2度と立ち直れないよ。

その日、私はコンビニで缶チューハイを3本買って、そのままお酒の力を借りて強引に眠りに落ちた。




「あれ? 今日はもう海空さんに尻尾振って挨拶しないの?」

「し、尻尾ってそんな……」


同期の菅ちゃんに、驚いたようにそう問いかけられた。

あの日以来、私はソラ君に職場でもプライベートでも関わることを一切やめた。

仕事上の連絡はするけど、業務的な会話のみで、無駄なことを質問したり好きですオーラを放つこともやめた。

それは周りからしたら自分が思ったよりずっと大きな変化だったらしく、もうすでに菅ちゃん以外の人からも“何かあったの?”と心配されてしまった。

私ってそんなに分かりやすかったのか……。

私は今更ながら自分の行動や言動を反省した。


「もう4回もふられちゃったし、さすがにこれ以上はソラ君の迷惑になるかと思って……」

「今諦めるために距離置いてる的な?」

「うん、でもちゃんと目を見て笑顔で会話してるよ? 業務的なことだけど……」

「そ、そっか、それが同期として普通だもんね……別に避けてるとかじゃないしね……」

「そうだよ~、ふつうに戻ったんだよ~」

「そ、そっか……でもなんか調子狂うな……」


< 58 / 71 >

この作品をシェア

pagetop