忠犬カノジョとご主人様
ソラ君は、爽やかな薄い水色のフレンチリネンレーヨンシャツに、細身の黒いカーゴパンツスタイルだった。
ソラ君の私服姿に私はコンマ単位でノックアウトだった。
やっぱりソラ君、水色似合う……。かっこかわいい……あ、良く見たら胸ポケになんか小さな鳥の刺繍入ってるお茶目だ可愛い……靴高そう……ていうかかっこいい……。
たった3秒くらいで、私はもう土石流のごとく雑念を垂れ流していた。
ま、まずい、暫くソラ君から離れていた分反動がっ……!
これ以上危ない妄想をしてしまう前に、さっさと退散しないと(法律的に)捕まってしまうかもしれない……。
私はぎこちない笑顔を浮かべたまま、嘘くさい言葉を並べた。
「あ、なんかお腹すいたなー、私朝ごはん食べてなくて、そろそろお昼食べに行こうかなー」
「ああ、じゃあ待ってて。すぐ終わるから」
「え」
「一緒にお昼食べよう」
「えっ」
し、しくったーーーー!!
なんでこうなった!? 目の前にもうソラ君はいない。断る時間もなかった。
私の今までの努力が水の泡になって、今日1日でまたあのソラ君を大好きだった気持ちが溢れ出てしまったらどうしよう……。
折角、折角ソラ君を諦めようと頑張ってたのに……嫌でも実際ソラ君と一緒にランチとか嬉し過ぎるどうしようまじで嬉しい。
いや、そんなこと言ってる場合じゃなくて! どうしよう、やっぱり家で食べるって言って逃げる!? でもそこまでしたらまだ意識してることばれる!?
どうしよう、どうしよう……。
私は、小さい脳みそで色んなことをぐるぐると考え込んでいた。
「……え、クルミ?」
その時、聞き覚えのある声に名前を呼ばれて、私は顔をあげた。
顔を上げてしまったことを、私は瞬時に後悔した。
―――そう、目の前にいたのは、私のことを“重い”と言ってふった元彼だったからだ。
現在大学院生の彼は、まだ明るすぎる茶髪を横に流して、本当に驚いたような表情で私を見つめていた。
本屋の前で、私は完全に固まってしまった。重いと言われてふられたあの日のことがフラッシュバックして、体が動かなくなってしまった。
「……っくりしたー、クルミ変わったね。そんな露出高い服着る子だったっけ?」
そう言って、彼が少しいやらしい目つきで私の肩を見た。全身に嫌悪感が走った。
「1年生の時はまだ野暮ったかったけど、女子ってやっぱり変わるもんだね、驚いたわー」
「あ、そ、そうかな……」
「うんうん、めっちゃいい感じ。俺好み」