忠犬カノジョとご主人様
「そもそもあんなに好き好き迫ってたくせに突然話しかけなくなるし、久々にプライベートで会ったかと思えばそんな露出高い服着てるし、あからさまに気まずそうにするし、今日は絶対に逃がすもんかと思ってたのに、ちょっと一人にさせた隙に生ごみにセクハラされてるし、なんなんだよ」
「え……え!?」
「嘘かもしれない話をあんなに真剣に聞いて、バカみたいにぼろぼろ泣くし……」
「………」
「君は、ずっと自分に懐いてくれていた犬が、突然素っ気なくなったらどうする?」
「い、犬ですか!? さ、寂しいですよね……、普通に……」
「その時初めて気づくんじゃないか。“懐かれているのが当たり前だ”と思っていた自分に……」
「えっと……」
「だから、そういうことだから」
「なにがそういうこと!?」
「そういうことだから」
ソラ君は、押し切るように言い放ち、私の手をぎゅっと握った。
ソラ君の色素の薄い茶色の瞳に吸い込まれそうになって、私は暫し呆けてしまった。
でも、そういうことってどういうことだろう……。
私はソラ君の瞳を見つめたまま、なんとか言葉を絞り出した。
「……でも、あの話は、元カノの話は、嘘じゃないですよね……?」
「嘘だよ」
「本当だよ、ソラ君は、真剣に思いを伝えた人に、あしらうためだけに嘘をついたりしない……絶対に」
「……なんでそう言い切れるの?」
「私、知ってるもん。実はソラ君は凄く優しい人だってこと、無愛想なんじゃなくて単に人見知りだってことも、不器用なだけだってことも…」
「………」
「知ってるよ。ソラ君は凄く素敵な人だって……、だからいつか、そのトラウマを乗り越えさせてくれるような女性と、出会えるといいね……っ」
そう涙目で言った瞬間、一気に真剣だったソラ君の顔が不機嫌になった。
「この流れでなんでそうなるんだよ!」
「え!?」
「まあ、言わそうとしてるんなら言うけどな別に」
「な、なんのこと……?」
「付き合って」
「え」
「付き合って、俺と」
「え……?」
「……好きだから」