忠犬カノジョとご主人様
……ソラ君の言ってることの意味が分からなくて、私は暫し固まった。
好き? ソラ君が、私を……?
嘘だ。最近仕事頑張ってたから疲れが溜まってるのかな。幻聴まで聞こえるようになるなんて……。
私の反応がいまいちなことにソラ君はさらに不機嫌になり、私の手を握った。
「ちゃんと聞いてた? 今の」
「き、聞いてた。なんか、好きって幻聴が……」
「幻ってことにしていいならそれでもいいけど」
「よくない!! 現実がいい!!」
「……返事無いと困るんだけど」
「でも、ソラ君の負担になっちゃうかも……」
私の言葉に、ソラ君は一度真剣な表情になり、じっと私の瞳を見つめた。
「……仕事が最優先。その気持ちはこれから先ずっと変わらない。双葉さんより仕事を取ることはこの先も何度もあるかもしれない」
「うん……」
「……何度も、寂しい想いをさせるかもしれない。よくそのことを考えて、無理そうだったら俺をふっていい」
「………」
「でも、俺は、いつか仕事に飲み込まれて、何のために働いてるのか分からなくなったとき、そんな時、もし隣に双葉さんがいてくれたらって……想像したら心が軽くなった」
「ソラ君……」
「好きになっちゃだめだと思っていた。君みたいに優しい子は、俺みたいな人間と付き合ったら、きっと君だけが我慢してしまう。だからずっと逃げてきた。でも、いざ日常に君がいなくなったら、寂しくて仕方なかった……」
ソラ君の、意志の強い瞳が、ずっと私の方を向いている。
繋いでいた手にぎゅっと力が入って、ソラ君の気持ちがそこから流れ込んでくるようだった。
私は、彼の真剣な言葉全てが、私に想いを伝える為だけに用意されたものだとようやく理解して、胸の奥の奥に隠していた彼への気持ちが、堰を切ったようにあふれ出した。
ソラ君が好き。
ソラ君が好き。