忠犬カノジョとご主人様
言葉では大丈夫と言っても、きっといつか寂しくなってしまう時が来るだろう。
でも、仕事をしている時のソラ君も好きだし、彼がどれだけこの仕事に熱を注いでいるか、私は知っているから。
相手の価値観を受け入れて大切にするってことは、想像する以上に難しいことなのかもしれないけど、彼が仕事に疲れてしまったその時に、そばにいてあげたいと心からそう思う。
きっと気の利いた言葉も言えないし、仕事のことでアドバイスできることなんかないと思う。
でも、それでも、そばにいるだけで心が軽くなると、あなたが言ってくれるなら。
「好き……っ、ソラ君が大好きっ……」
「………」
「私、何も役立てないと思うけど、ソラ君が呼んでくれたら、尻尾振ってそばに行くよ……っ」
「ふ、何それ、犬みたいじゃん」
「ソラ君のためにしてあげたいことが、沢山あるよっ……」
「………」
「ソラ君のそばにいたいっ……」
「クルミ」
目尻に少し溜まっていた涙を、ソラ君が指で掬った。
ソラ君は今までに見たことないくらい優しい表情をしていて、私は、この表情を誰にも見せたくないと強く思った。
私だけに見せてくれる表情であってほしいと、そう、思った。
「俺は、クルミが可愛くて仕方ないんだ」
「え……」
「……こんなに誰かのこと必死で口説いたのは初めてだよ。正直この間のプレゼンより緊張してる」
そう言って、ソラ君が私の手を自分の心臓に持って行った。
ソラ君の心臓が、ドクドクと速く脈打っていた。
私はその瞬間、顔に熱が集まっていくのを感じた。
「……で、でも私重いから……重いって思ったらはやめに言ってね!」
「そんなこと思わない。好きな人に好かれて嬉しくないなんてこと、ありえない」
「で、でも……」
「俺がそんなに器小さい男に見える?」
「そ、それは……」
「俺なしでは生きられないくらい依存していいよ。全て責任取る覚悟で、付き合うって決めたから」