忠犬カノジョとご主人様
ソラ君と忠犬彼女②
そういえば、ソラ君はあの時さらっと“全て責任取る”なんて、もう殆どプロポーズに近い言葉を言っていた。
そのことを数年ぶりに彼に伝えてみると、彼は最初からこうなるつもりで付き合ってた、と当たり前のようにさらっと言ってのけた。
それは私にとってかなり初耳なわけで、正直プロポーズされた時並に驚いた。
「え、そうだったの!?」
「クルミは好き好き言う割にまだそういう覚悟は無かったって、分かってたけどね」
「うっ……」
「でも俺は最初からそのつもりだったし」
「き、聞いてないよ……」
「言ったじゃん。最初に」
ソラ君は、式場のパンフレットをソファーに座りながら流し読みしていた。
私はソラ君のために淹れたコーヒーを持ったまま、リビングに立ち尽くしていた。
ソラ君にプロポーズされたのは、付き合って4年目の記念日のことだった。
どうせ仕事で遅くなると思っていた私は、いつも通りご飯を用意して、小さなケーキを買ってソラ君の帰りを待っている筈だった。
しかし、仕事が終わって会社から出ると、違う部署なのにソラ君がロビーで私のことを待っていた。
戸惑う私の手を引いて、付き合うきっかけとなったあの思い出のガーデンプレイスに連れて行かれ、プロポーズをされた。
私はあの時みたいに幻聴かと疑ったが、ソラ君が私にしか見せない優しい表情をしていたから、夢じゃないって分かった。
指輪を受け取ると、ソラ君は私を人目も憚らず抱きしめて、その日のうちに私の親に挨拶しに行く日を決めて、挨拶が終わると会社のお偉い方々に正式に報告を済ませた。
私のお父さんはわりと曲者で子離れできていないタイプだったから、話が進むのには時間がかかると思っていた。
だけど、ソラ君お得意の余所行きの笑顔とトークでお父さんを匠に丸め込み、とんとん拍子で話は進んだ。
ソラ君のご両親は海外にいて忙しいからテレビ電話での挨拶となってしまったが、2人は手放しで喜んでくれた。
会社の人も同様に祝福してくれた。
……八神君にだけは個人的にお知らせして、個人的にお祝いの言葉をもらった。
胸が痛んだけど、「双葉さんが後悔するくらい良い男になりますね」と言って、笑ってた。
ソラ君はいまだに八神君のことが嫌いらしいけど、もしかしたら今後同じ部署になるかもしれないからぜひとも仲良くして欲しいと切に願っている。
本当は八神君は、ソラ君の仕事ぶりを尊敬しているみたいだし……。