忠犬カノジョとご主人様
「……立ってないでここ座んなよ」
ソラ君がソファーの隣を叩いたので、私はコーヒーを目の前のローテーブルに置いて隣に座った。
「そういえば新居の手続き来週中には済ませておくから」
「えっ、ありがとう! いつの間に……」
「クルミもそろそろ自分の荷造り始めときなよ」
「はいっ」
「何か買い換えたい家具とか家電あるならリストアップしといて」
「はいっ」
「なんか部下に指示してる気分になってきたな……」
ソラ君はそう呟いて、ふうと溜息をついた。
何から何までするすると手続きを行ってくれるソラ君に、頭が上がらない。
私に任せられないという理由が殆どだろうが、彼曰く普段家事を殆ど任せてしまってるから、だそうだ。
結婚式を目前にして私は地に足ついていない状態なのに、ソラ君はいつも通りで、本当に結婚するのかまだあまり実感がわいていない。
婚姻届は明日出す予定だ。その日は私の誕生日だから。
誕生日プレゼントは何が良い? と聞かれたけど、私にとってソラ君が旦那様になるということ以上のプレゼントなんて他にない。
「海空クルミになるのかあ……」
私がぽつりと呟くと、ソラ君がふっと静かに笑った。
「ちょっとマリッジブルー?」
「えっ」
「なんかここ最近、ぼうっとしてるから」
「それは幸せボケしてるだけでっ」
「そう?」
「ソラ君は全然いつも通りだよね……」
「クルミの前ではね」
「?」
ソラ君はそう呟いて、私の肩に突然凭れ掛かってきた。
私は驚いて、思わず肩を震わせてしまった。
え、ソラ君が甘えてる……!?
なんて貴重な日なんだ……今すぐ写メ撮って永久に保存したい……。