忠犬カノジョとご主人様
「クルミは覚えてる? 俺がクルミに告白した日のこと」
「も、もちろん覚えてるよっ」
だって、後にも先にもあんなにはっきり好きと伝えてくれたのはあの日だけだもの。
「……俺、本屋でクルミを見かけた時から、今日口説き落とすって決めてたよ」
「ぶっ」
「美容の本必死に読んでる姿とか、小さい子が本を買ってもらってはしゃいでる時、思わず顔がほころんでる所とか、人が通る時は必ず身を引いて通りやすくする仕草とか、そういうクルミを見たら、確信したんだ」
「え……」
「この人と一緒なら、この先何があっても頑張れるって」
「……ど、どうしたの、急にそんなこと言って……」
「ん?」
「い、いつものソラ君じゃない……」
「今は仕事じゃないからね」
チュッと、ソラ君の唇が、あの日みたいに優しく触れた。
小さなキスを何度も重ね、最後にぎゅっと抱きしめられた。
そして、本物の結婚指輪をはめている私の薬指をじっと見つめて、そっと指先にキスをした。
こんなに幸せでいいのだろうか……なんだか甘すぎて目の前がくらくらしてきた。
ソラ君はこうやってたまにとんでもなく甘いキスを落としてくるから、本当にずるい。
「ううっ、苦しい……」
「どうした急に」
「ソラ君が好きすぎて胸が苦しいっ……」
「はは、なんだそれ」
「ソラ君好き」
「うん、知ってる」
「私が本当に犬なら、今尻尾ふりまくってる」
「うん、なんか想像つく。クルミが犬ならいつでも膝の上にいて欲しいね」
「一度生まれ変わって犬になりたい……」
「でもそしたら、クルミの口から好きって言葉、聞けない」
「はっ、伝えられないのは嫌だっ」
「それに、犬じゃなくても、充分可愛がってるつもりなんですが?」