忠犬カノジョとご主人様
あなたがふとドラマの内容を聞いてきたときにちゃんと答えられるように、
あなたが枯れた植物を見て悲しまないように、
あなたが毎日健康でいられますように、
そう、願って、願っているのです。
でもそれは、全部私が勝手にしたことだから。
私があなたを好きだから、してしまったことだから。
そこに見返りを求めるのは、おかしな話ですね。
見返りを貰えずに、寂しいと泣く今の私は、男性から見たら、“めんどうくさい女”なのかもしれないですね。
あなたは、従順じゃない私を見たら、きっと幻滅するでしょう。
ごめんなさい。
私、本当は、とても面倒くさい女なのです。
愛したらその分愛して欲しいの。
見返りなんていらない、なんて言えないよ。
だって、私が尽くすどんなことも、“あなたが喜んでくれる”かもしれないから、やっていることだもの。
あなたが、私をもっと好きになってくれるかもしれないって、思ってやっていることだもの。
でももう、無理みたい。
もうそんな期待をすることも、疲れちゃったみたい。
ソラ君、ごめんね。
……今日中に私物をまとめて出ていこう。
元々あんまり私物は置いていないから、きっとすぐまとめ終わる。
暫くお姉ちゃんの家に泊まって、仕事が落ち着いたら新しいアパートを借りよう。
貯金もそこそこ貯まってるし、前よりは少し良い所に住めるだろう。
……私は、ソファーの近くにゆっくりとしゃがんだ。
それから、いつものように、ソラ君の少し伸びた前髪を耳に流した。
「さよなら」
そう言ってから、静かにキスをした。
いつもより長めにキスをした。
これが最後のキス。そう思うと、なんだか涙が止まらなかった。