春
「あの…。Yさん…ですよね」
「…」
分かっていながらも聞く。
無言で頷いてくれたY。
「あの…サインもらえませんか」
スケジュール帳の後ろの白紙スペースとボールペンを差し出す。
やっぱり無言で書いてくれた。
「ありがと、ございます」
かっこいいんだけど、なんだか威圧感があって。
震えた。
「いつも握手会来てくれてありがと。また来てね」
恐らく笑っていない、所謂営業スマイルとやらで立ち去ったY。
覚えてくれていたことに感激しながらも、なんだか分からない感覚に戸惑いを隠せなかった。
「よかったね!覚えてくれてたみたいで!
…あおいん?
どうしたの?」
後ろからマコちゃんに声をかけられ、ハッとする。
「あ、ううん。なんでもない。行こっか」
「ばいばーい。沖縄旅行楽しんでー」
健二はYの後を追って行った。