春
18時10分
「ごめん、お母さん、遅くなって」
靴を脱ぎ散らかして台所へ走るあたし。
「ほんとにもう。なにしてたの?」
わざとらしく頬を膨らませたお母さん。
よかった、怒ってない。
「光と会ってさ。話し込んじゃったの。ごめんね」
コンビニの袋からごはんを取り出しながら言ったあたしの言葉に残念がるお母さん。
「あんた、また会ってたの?あ〜ん、お母さんが行けばよかったわ〜」
「会ってたっていうか…下でバッタリ」
「おんなじよ〜。んもう」
ブツブツ喋るお母さんをスルーしてごはんを温める。
「ねぇ葵、なんの話をしてたの?」
「んーとね、あー。
かっこいいって言われるの好きじゃないんだって。
すんごい落ち込んでたから言わないであげてね」
ピーッピーッ
あたしが注意を促すとレンジが鳴った。
「えぇ?変わってるわね」
驚きを隠せない様子のお母さん。
そりゃそうだよね。
「でしょ?あちっ」
温まったごはんをレンジから取り出しながら言う。
「あとさ、もう引越しの片付け終わったって言ってたんだけどね、電話では『またすぐあれやと思って』どうたらこうたらって言ってたの。またすぐ引越すってことかな?」
あの時電話で同級生と話していた内容。
気になったけど、なんだか怖くて聞けなかった。
答えが怖くて。
「あぁ、それはね」
お母さんは知っていた。
「ずっと転々としてるからだと思うわ」
転々と。
「そうなんだ。でもさ?親の仕事で転々としてたんなら、もう1人なんだし関係なくない?」
否定したかった。
この先の未来を分かっていたかのように。
「うーん。そうはならないみたいよ?
お手伝いしてる時にね、『短い付き合いになると思いますけど、どうかよろしくお願いします』って言ってたの」
「どれくらいいるか聞かなかったの?」
「聞いたけど、分かんないって言ってたわ」
「あたし、聞いてくる」
「え?ちょっと葵、晩ご飯食べないの?」
「あとで!」
あたしはなぜか焦っていた。
まだ知り合って数時間の人が明日にでもいなくなるような気がした。
そんなわけなかったのに。
ドンドンドンドン!
「光!?」
ピーンポーン
ドンドンドン!
「ひかるー!」
ドンドン…ガチャ
「どうしたん!?」
「光!?光!?」
「どうしたん?葵?」
普通じゃなかった。
異常だった。
勝手に不安になって。
人の家ドンドン叩いて。
「光、あの…」
今回はちゃんとそうっとドアを開けてくれて、ちゃんとピンポン1回で出てきてくれた。
その倍以上にドアは叩いてしまったけど。
「葵?なんかあった?落ち着こうや」
あたしは荒い息のまま首を振った。
「あの、光。
光、いなくなっちゃうの?」
少し息を整えて聞いた。
光は何が何だか分からないといった感じで首を傾げる。
するとハッとして、首を横に振った。
「あれやな?電話のときの、またすぐにっていう…」
説明不足だったのにも関わらず、伝わった。
「数ヶ月じゃいなくならんよ。数年はおる」
「どれくらい?」
「それは分からん」
「黙っていなくなったりしない?」
「当たり前やん」
「本当に?約束だよ?」
「あぁ。ほんまに」
「よかった…」
安心して崩れ落ちてしまった。
「葵?ほんまに大丈夫か?」
「うん。大丈夫。なんか、光が消えちゃうような気がして。怖かった」
「今日越してきたんに今日消えるわけないやろ」
あたしの言葉に驚いたかと思うと、すぐに笑顔になった光。
「そうだよね。おかしいよね。ごめん。うるさくして」
「ありがとうな。俺は嬉しいよ。そうやって言ってくれたん」
優しい子。
確実に尋常ではないあたしの行動を否定しなかった。
「ごめんね」
それでもありがとうとは言えないことをした。
「ええんよ。不安は解消されたか?」
「うん」
「そんならなんも悪い事ないやん。だあれも謝らんでええ」
「…ありがとう」
「おう!」
「ごめん、お母さん、遅くなって」
靴を脱ぎ散らかして台所へ走るあたし。
「ほんとにもう。なにしてたの?」
わざとらしく頬を膨らませたお母さん。
よかった、怒ってない。
「光と会ってさ。話し込んじゃったの。ごめんね」
コンビニの袋からごはんを取り出しながら言ったあたしの言葉に残念がるお母さん。
「あんた、また会ってたの?あ〜ん、お母さんが行けばよかったわ〜」
「会ってたっていうか…下でバッタリ」
「おんなじよ〜。んもう」
ブツブツ喋るお母さんをスルーしてごはんを温める。
「ねぇ葵、なんの話をしてたの?」
「んーとね、あー。
かっこいいって言われるの好きじゃないんだって。
すんごい落ち込んでたから言わないであげてね」
ピーッピーッ
あたしが注意を促すとレンジが鳴った。
「えぇ?変わってるわね」
驚きを隠せない様子のお母さん。
そりゃそうだよね。
「でしょ?あちっ」
温まったごはんをレンジから取り出しながら言う。
「あとさ、もう引越しの片付け終わったって言ってたんだけどね、電話では『またすぐあれやと思って』どうたらこうたらって言ってたの。またすぐ引越すってことかな?」
あの時電話で同級生と話していた内容。
気になったけど、なんだか怖くて聞けなかった。
答えが怖くて。
「あぁ、それはね」
お母さんは知っていた。
「ずっと転々としてるからだと思うわ」
転々と。
「そうなんだ。でもさ?親の仕事で転々としてたんなら、もう1人なんだし関係なくない?」
否定したかった。
この先の未来を分かっていたかのように。
「うーん。そうはならないみたいよ?
お手伝いしてる時にね、『短い付き合いになると思いますけど、どうかよろしくお願いします』って言ってたの」
「どれくらいいるか聞かなかったの?」
「聞いたけど、分かんないって言ってたわ」
「あたし、聞いてくる」
「え?ちょっと葵、晩ご飯食べないの?」
「あとで!」
あたしはなぜか焦っていた。
まだ知り合って数時間の人が明日にでもいなくなるような気がした。
そんなわけなかったのに。
ドンドンドンドン!
「光!?」
ピーンポーン
ドンドンドン!
「ひかるー!」
ドンドン…ガチャ
「どうしたん!?」
「光!?光!?」
「どうしたん?葵?」
普通じゃなかった。
異常だった。
勝手に不安になって。
人の家ドンドン叩いて。
「光、あの…」
今回はちゃんとそうっとドアを開けてくれて、ちゃんとピンポン1回で出てきてくれた。
その倍以上にドアは叩いてしまったけど。
「葵?なんかあった?落ち着こうや」
あたしは荒い息のまま首を振った。
「あの、光。
光、いなくなっちゃうの?」
少し息を整えて聞いた。
光は何が何だか分からないといった感じで首を傾げる。
するとハッとして、首を横に振った。
「あれやな?電話のときの、またすぐにっていう…」
説明不足だったのにも関わらず、伝わった。
「数ヶ月じゃいなくならんよ。数年はおる」
「どれくらい?」
「それは分からん」
「黙っていなくなったりしない?」
「当たり前やん」
「本当に?約束だよ?」
「あぁ。ほんまに」
「よかった…」
安心して崩れ落ちてしまった。
「葵?ほんまに大丈夫か?」
「うん。大丈夫。なんか、光が消えちゃうような気がして。怖かった」
「今日越してきたんに今日消えるわけないやろ」
あたしの言葉に驚いたかと思うと、すぐに笑顔になった光。
「そうだよね。おかしいよね。ごめん。うるさくして」
「ありがとうな。俺は嬉しいよ。そうやって言ってくれたん」
優しい子。
確実に尋常ではないあたしの行動を否定しなかった。
「ごめんね」
それでもありがとうとは言えないことをした。
「ええんよ。不安は解消されたか?」
「うん」
「そんならなんも悪い事ないやん。だあれも謝らんでええ」
「…ありがとう」
「おう!」