「じゃあ、俺は帰るな。
悠希、葵の言うことよく聞いて騒ぐんじゃないぞ」



「はいはーい」



お父さんのように言いつけて帰って行った一人。


悠希くんの聞いてるのか聞いていないのか分からないような返事にあたしはつい落胆してしまった。


一人の言うことなんて聞く気がないように感じたから。



「ねぇねぇ、葵彼氏いないの?」


ニコニコと愛らしい顔で聞いてくる悠希くん。


「ふぇ?いないけど…」


悠希くんにこんなこと聞かれるとは思っていなかったから変な声が出た。


恋愛とか、興味なさそうなんだもん。
悠希くん。


「好きな人いるの?」



「うーん」



「忘れられない人がいるの?」



「そう…だね」


あたし悠希くんには何も言ってない気がしたけど…。
気のせいかな…。


「それってさ、Yじゃないの?」


あ、そういうことね。


「確かにYは特別だけど、ファンとしての好意だから…」



「違うよ」


また言いかけで遮られた。

しかも違うって何よ?


「え、なに?」



「Yって、山城光のことでしょ?」


…は?


「ちょ、悠希くん?
なんで光のこと知って…ていうか、そんなわけないじゃない」


いきなり何を言い出すのかと思ったら。



「ほんとだよ?
健二が言ってたもん」


健二…。


あの中途半端な健二?



「ねぇ、なんで健二のことも知ってるの?」


「なんでって…」


「だって悠希くん沖縄の子だし、健二は大阪の人だよ?」


「うん、そうだよ。でもいつの間にかともだち」



「ごめん、意味わかんない。
悠希くん、Yが光だって証拠はどこにもないでしょ?
そんなことであたしをからかうのはやめて」



「からかってないもん。
まことだって知ってるよ」


「ねぇ。やめてって言ってるの分からない?」


「まことに聞けばいいよ」


「子どものいたずらに付き合ってられるほどマコちゃんは暇じゃないんだよ」


どんどん言い方がキツくなって行くのは自分でもよく分かってる。


でも、本当にそうやって言われるのは腹が立つ。


根拠もないのにそんなこと言わないで。


「オレが電話してあげるよ」


「マコちゃんを困らせないで」


「認めたくないからっていうオレを悪者にするな」


さすがにちょっと不機嫌になってしまったらしい悠希くん。


「しかもさ、それ言っちゃいけないやつなんじゃないの?
だから誰もあたしに言わないんじゃないの?」


「…そうだよ。
葵は仲間外れにされるのが好きなの?」


「そういうわけじゃないけど、知らない方が幸せなことだってあるの。
まぁ、この件に関しては全く信じてないけど」


「ふーん。
オレ帰る」


「どこに?」


一人もいない今、知らない街を悠希くん1人でどこに行けるというのか。


「どこか」



「危ないから今日だけならいてもいいよ」


「いい」


あぁ。

完全に嫌われたな。


けど、こんなことがこれからも続くようならこっちから願い下げよね。


「もしもしー?ふみちょん、泊めて」


『んー?聞いてた話とちょっと違うー?』


「うん。迎えにきて?」


『どこまで?』


「駅でいい」


『30分くらい見といて』


「ありがとー」
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