「早く、死になよ」



沙都子はもう、あたしの知る沙都子じゃない。

筆箱に入っていたカッターをあたしに渡して。


「それで首を切るの」


悪魔と化した。


もう、後悔も失うものもない。


悪魔に言われるまま、死んでも。

私は後悔しない。


カッターが首に数ミリ食い込んだ時。



「葵!?葵はおるか!?」


久しぶりに聞く声に耳を疑った。


「あっ…おった…。なにしとる…?」


こんなところにいるはずがない。


こんな都合よく…現れるわけない…。


気にせずカッターを押し付ける。


ツーっと血が流れる。


痛くない。


不思議と痛くない。


「葵!手ぇおろせ!!」


声が、近くなる。


意識が薄れる中、声だけは。




光の声だけは、すぐそばで聞こえた。


『葵、ごめん。
ごめんな。
葵はなんっにも悪くない。
ごめんな、葵…』


途切れた意識の中に響く光の声。
これは、夢。
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