でも、嘘をついているようには見えない。



「なによ、そんな顔して。ホテル行こうとか言ってたくせに」




「酔いが覚めてきた」




「大体、大切な話とか言ってお酒飲んで会いにくるって、嘘くさすぎるから!」



「…悪い」



え、素直に謝った!?



「聞いてショックを受けるかもしれないけど、聞いてくれるか」



あまりにも真剣な彼に、思わず唾を飲む。



「今の光には家族がある」



ドクッ




別に、ショックじゃない。



そう言い聞かせる。



実際は…。




「それで。だからなんだっていうの」




声が震えるくらい、悔しくて、ショックだ。



いつかあたしの隣に戻ってきてくれると、期待していた。



光は優しいから。



いつでも、どんなときでも。




「子どももいて、一見幸せそうな家庭だ」



心なしか、優輝さんの声も震えている気がした。



「一見って」




「…あいつが望んだモノじゃない」




「それって…」




どういうこと…。




「光がYとしてテレビに出ていた頃、Yの熱烈なファンがいた。
Yが光だと分かって引退した後、その人は自殺した。その人の部屋には切り刻まれた新聞がたくさんあったそうだ。
『一般女性との交際が原因か』と書かれた記事を中心に」




あたしだ。
でもそれがどう関係して…。




「その人の家族がそこに書かれている『一般女性』を探した」



ビクッ



「えっ、あたし…?」




完全に震えたあたしの問いにしっかり頷く優輝さん。




「光が別れを告げる数ヶ月前から、光への嫌がらせが始まっていた。
『お前の大事な彼女を殺されたくなかったら、彼女をたくさん傷付けて別れろ。そうして新しい彼女を見せつけて、家族を作れ』
最初は相手にしていなかった。でも、徐々にリアルさを増す嫌がらせで、光は戸惑った」




「どんな…」




「これ、お前だろ」




ふいにスマホの画面を向けられた。



そこに写っているのは確かにあたしだ。
バイト帰り、一人で歩いているあたしを正面から撮ったもの。
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