春

「お前からの電話の後、特に気にすることもなくどうせ元に戻るだろうと思ってた。
1ヶ月経った頃にはまたくっついてると確信していた。お前からの電話もなく誰からも別れたとかいう噂が流れてこなかったから」




噂なんて、流れるわけがない。
光が言いふらさない限り。



あたしには友達がいないんだから。



「でも、それから1年が過ぎた頃に見たんだ。
光が妊婦と手を繋いで歩いてるところを」



あぁ、そんな前から。




「何度も確認した。お前と顔が違う女だって。それで初めてあの時のお前からの電話を後悔した。それと同時に、どういうことか説明しろと凄んだ」




あたしのために…？


後悔なんて、してくれたの？




「『お前には関係ない』ってなかなか教えてくれなかった」



光は優輝さんまで敵に回したの？



「真実を知ったのは妊婦が子どもを産んでからだった。入院先の病院で待ち伏せして、一人でいる光を捕まえて口を割らせた」




あたしのためにそこまで…。



なんで…。





「そしたらそういうことがあって、仕方なくこういう生活をしていると話してた。
だから俺が嫌がらせ犯を警察に突き出してやると言った。それなのに……」




今までよりももっと、辛く悲しい顔をした優輝さんの表情に、嫌な予感がした。




「『好きでこんな生活をしている訳ではないけど、子どもが生まれた以上、別れることはできない。子どもに罪はない。もちろん彼女にも。俺には家族を養う義務がある。だからもう、来ないで』って、言ってな…っ…。ごめんな…っ俺があの時ちゃんと聞いてやってれば、変わってたかもしれねぇのになぁ…」




優輝さんの涙が、とても綺麗で、その涙を見るのが辛くて、ゆっくりと目を閉じた。
あたしの頬にも涙が伝う。



もしかしたら、優輝さんはこれを話すのが辛くて、お酒を飲んで紛らわせたかったのかもしれない。




そこまでして、あたしに伝えにきてくれたのかなと思うと、優輝さんの優しさがズキズキと突き刺さった。




「優輝さん、ありがとうございます。優輝さんはあたしのことが大嫌いなのに、あたしのことを思って涙を流してくれて…。あたし、世界一幸せな人間かもしれないです。
光にもその人生をかけて守ってもらえて。
ほんと、ごめんなさい」




「バカ、っ言ってんじゃねぇぞ。
俺はずっと、お前が好きだよっ！」




えっ…っ…




「そんな嘘、優しさじゃないっ！」