春馬が幼稚園に通うようになって、ママ友たちと公園で遊ばせていた時のこと。



春馬より5歳くらい年上の女の子が、1人で遊んでいた。



滑り台のてっぺんに座って悲しそうな顔をしている。



そこに、お母さんらしき人が現れた。



すると女の子は大きな声で叫んだ。



「愛菜!お父さん嫌い!帰らない!」



お母さんに向かって叫ぶ。



反抗期ってやつか。



大変だな。




「そんなこと言わないで。パパ寂しくなっちゃうでしょ」



言って聞かせようと試みたが、だめだった模様。



「ママはお父さんの味方なの!?愛菜のことは嫌いなの!?う、うぇ〜うわああああ〜ん」



「そんなわけないでしょう?ママはみんな大好きなの。ね、お願い帰ろう?」



なんで優しいお母さんなんだろう。



と、視線をジャングルジムに移すと、春馬が落ちそうになっていた。



「春馬!手、離さないで!」



公園中に響き渡るくらいの大声で春馬に叫んだが、あたしがいたところからでは遠く、春馬はあまり分かっていないようだった。



走りながら必死に春馬を見ていると。



「きゃあっ!!春馬ぁ!!!」



春馬の手が離れてしまった。



とっさに出た悲鳴がこだまする。



ぎゅっと目を閉じてしまった。


けれどいつまで経っても落ちた音が聞こえず、ゆっくり目を開けた。
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