15時05分




「ほんまにありがとうございました。おかげでこんな早くに片付きました」




約30分で荷物を部屋に運び終え、光は業者の人たちとあたしたちに頭を下げた。



「いいのよ、困った時はお互い様っていうじゃない」



これから先も頼ってね、とお母さんが言う。




「ありがとうございます。迷惑ばかりかけるかもしれませんけど、そん時は大目にみてください笑」




こう言った光に対し、いいのよいいのよ、と笑うお母さん。




なんかご機嫌だな。




「葵も、ありがとう」




いつの間にか先輩とは呼ばれなくなって、普通にタメ口だ。




「どういたしまして〜。またなんかあったら来てもいいよ。203号室だから。ここの真上だよ」




上から目線で言ってみると、光はふはっと吹き出した。




「もう、そんな偉そうに言わないの」




お母さんがあたしの耳のそばでそう言った。



あたしはいいの、いいの、と流した。




「では、わたくしどもはこれで」




引っ越し業者の人たちが3人トラックに乗って帰って行った。



1人は荷台の方から乗って行った。



「んじゃ、あたしたちも帰るね」




と踵を返そうとすると。




「あ、待って。これ」




「なに?」




光はズボンのポケットから紙切れを取り出した。




見てみると、そこには光の名前と電話番号、アドレスが手書きで書いてあった。




綺麗な字…。




「さみしくなったらメール、してくれてもええよ」




今度は光が上から目線で言ってきた。




「さみしいのは光の方でしょ!
仕方ないから後でメールしてあげるよ」




笑いながら言うと、光は嬉しそうに笑っていた。




「待ってるで」






あたしたちのやりとりを見ていたお母さんも微笑んでいる。




「んじゃね」




今度は本当に踵を返した。





「ほんまにありがとうな!」




下から光の声が聞こえて、あたしはニコッと笑って家に入った。
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