12時45分



今日は春休み明けの初登校だから午前で終わった。




新しい教科書やいろんな手紙を配られ、簡単に自己紹介をして2時間を過ごした。



新入生も大体同じだったようで、重たそうな紙袋を持った子や、名前を確認し合ったり共通の趣味の話で盛り上がっている子達が廊下にうようよいた。




そんな中で。




階段の前に大きな大きな人だかりが出来ていた。



これじゃ下に行けない…。



他の階段を使おうと体の向きを変えて歩き出そうとすると…。




『山城くん!今からカラオケ行こうよ!』
『光くん!メアド交換しよ!』
『山城、彼女いんの?』




などなど。



たくさんの男女から暖かい声を頂いている光がそこにいることが判明した。



初日から大変だなぁ、光。



あの人だかりの中に入って光を引っ張り出す勇気なんかあたしにはない。




見て見ぬ振りをして別の階段の方へ行こうとした。




「待ち合わせしてんねん。悪いけどまた今度にしてくれへんかな」




と。



光が人混みから脱出して来た。




すると光はすぐにあたしを見つけ、駆け寄って来た。




「葵ー。ここにおったんなら助けてくれてもええやんかぁ」




少し疲れたフリをした光。




「めんどくさいことには巻き込まれたくないの。カラオケ行って来なよ」




このままあたしと一緒に帰ると多分…。




あたしの命が危ない。




光の周りにたかっていた男女があたしを物凄い形相で睨んでいるから…。




「なんでや、カラオケ行くなら葵も来んとあかんくなるで」



「え?なんでよ?」



「帰り道分からんて」



「首席が迷子?」




「っ」




「あんた本当は分かってるんじゃないの?」



「そ、そんなアホなぁ…」




「いいよ、どうしても分んなかったら迎えに行ってあげるから」




最後の方を強調して言うと、光はばつが悪そうに苦笑した。




「じゃあね」




「えぇ?葵待ってぇなぁ」




と言いつつも追いかけて来なかった光。




みんなと遊びたかったんじゃん。
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