春
「ねね、昨日振ったんだって?」
教室に入ると先に来ていた綾美が、カンガルーみたいに大ジャンプをしてあたしの方へ来た。
おそらく…
「光のこと?」
「そうそう!勇気あるね!入学したての後輩たちの前でなんて」
やっぱりね。
でも。
「振ってないよ。
ていうかそもそも告られてない」
「へ?」
あたしの返事に目を丸くする綾美。
「一緒に帰るのをやめただけ」
「なんで?」
「カラオケ誘われてたから。
それに」
「それに?」
「あんなに人気な光があたしなんかと帰るためだけに誘いを断るなんて、あたしの未来が心配になるじゃん」
「なにそれっ。
殺されるかもって?
あはははははっ」
なにそれって…
あはははって…
「綾美はあの子たちの目を見てないから笑っていられるんだよ」
そう、あの時光の周りにいた子たちの目はライオンのように鋭く、恐ろしかった。
「で?」
で?
「え、なに?」
いきなり笑いが止まったかと思うと、グイッとあたしに顔を近付けてきた綾美。
「葵はさ、好きなんでしょ?」
「誰を?」
「生徒会長」
「光?」
「以外誰がいる?」
なんでわざわざ生徒会長って言うんだろう。
普通に名前で言えばいいのに。
「光のことは好きだよ?近所の男の子として」
「え!?友達でもないの!?」
「うん、だって友達ってなんか軽いじゃん」
「え…そう?でもさ、近所の男の子の方が軽くない?」
「そうかな?別にそうでもないよ。
あたし友達ってイマイチ分かんないし」
「あ、そうなんだ」
そんなに変なこと言ったかな?
綾美が目を見開いたまま明らかに納得していない顔で納得した。
「え、じゃあ恋愛対象ではないの?」
「うん。まったく」
「あ、そう…そっかそっか。そうなんだ。ふぅん」
なんか動揺してる?
「どうして?」
「えっ!?」
え…なんでそんな驚くの?
「べ、べつに?なんでもないよ」
明らかに、おかしい。