ピーンポーン




…。





ピーンポーン





…。





「留守かな」




お母さん、本当に約束なんてしたのかな。




ピーンポーン




…。





帰ろっかな。




肉じゃがはドアノブに掛けとけば気付くよね。




ドアノブに掛けようと紙袋の取っ手を広げた瞬間。





ガチャ

ドンッ




「いっ…た…」





ドアが思いっきり開いた。




ドアの目の前にいたあたしの体の表側はドアに体当たりされ、ひりひり痛んだ。





「あ…ごめん」




中から顔を出したのは、びちょぬれの光だった。




ズボンだけ履いていて、上半身裸で髪の毛からは水が落ちている。




「ごめんじゃないわよ!痛いじゃないの!ピンポンって鳴ったら1回で出てきなさいよ!」





紙袋の取っ手を握りしめて光を睨む。





すると光は。




「ごめんって。風呂入っててん」




と、濡れた髪の毛を指差して笑った。





「風呂入っとったら聞こえへんやろ」




「こんな時間に入るのが間違ってるのよ。大体、片付けはもう終わったの?終わってからにしなさいよ」




あたしはドアの隙間から中を覗く。




「みんなこんくらいに入るやろ。もう終わってん」




あたしに中を見せながら言った。




「え、もう終わったの」




「せやで」




「こんな無駄なところで嘘つかなくてもいいじゃない」





光を疑い、もう一度睨む。




「ほんまやて。見てくか?」




中を親指で指し、あたしを見る光。





「い、いいよ。これ届けに来ただけだし」





ここで肉じゃがの入った紙袋を差し出す。





「ん?」




受け取りながら首を傾げる光。




「肉じゃが。お母さんが持ってけって」





すると光は何かを思い出したように口を開けた。




「そうや、料理ができひん言うたら作ってくれるって言ってくれたん忘れとったわ」




忘れてたの!?




「悪いな。ありがとうって伝えといて」





「うん。約束は忘れないでよね」




「悪い悪い」




綺麗に笑う彼を憎むことはできなかった。




「んじゃ、あたし帰るね」





「おう。わざわざありがとうな。それと、ごめんな。ドア…」




本当に申し訳なさそうに謝った光。





「いいよ。今度はそうっと開けてね」





「気ぃ付けるわ」




じゃあな、とドアを閉めた光。




料理が出来ないならなんで一人暮らしなんか…。
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