春
駅ビルの中に入ってエスカレーターで2階まで上がる。
人工的なライトがピカピカキラキラ派手で、目がチカチカする。
こんな明るくしなくても見えるのに、といつも思う。
なんて年寄りくさいことを思っているあたしとは正反対な光は…。
「へぇー、駅ビルの中なんや。
なんかオシャレやな。シャレオツシャレオツ〜」
本当に機嫌がいい。
下駄箱で聞いた理由以外にもなんかあったんじゃないのかな?と思うくらい。
でもまたなんか言ったらあんな空気になっちゃいそうで、なにも聞けなかった。
「大阪も駅ビルあるでしょ?」
「あるけど、なんかちゃう」
なんかってなんだろう。
雰囲気とかってことかな?
…そんなのどこでも違うか。
「ふぅん。
あ、あそこ」
エスカレーターから少し歩いた、建物の奥にあるフラボン。
おいしそうな焼き色がお店全体を包んでいて、いい香りが漂ってくる。
懐かしさもあって、自然と顔が綻んだ。
ショーウィンドウにはおいしそうなワッフルがたくさん並んでいて。
あたしは人気No.1の生クリームワッフルを週1.2のペースで食べていた。
できたてでふわふわホカホカのワッフルに冷たい生クリームを乗せて、生クリームがちょっと溶けたくらいで食べる。
これがたまらなく好きで、数ヶ月前までは中毒者みたいにやめられなかった。
あの日、体重計に乗るまで…。
ワッフルが原因かは分からなかったけど、ピークだった。
ワッフルをやめてから着実に痩せていったから、きっとワッフルの食べすぎだったんだと思うけど。
とにかくこのままじゃまずいと思ってワッフルへの執着を無理やり引き剥がしたんだ。
週1.2で通っていたものを突然断ち切ったがために、ショーウィンドウに並ぶ全てのワッフルを食べたいとさえ思った。
「むっちゃおいしそう!」
「超おいしいよ!」
「葵のオススメは?」
「これ!だけど全部おいしいよ!」
待ってましたと言わんばかりに生クリームワッフルを指差した。
そして、自慢じゃないけどメニューがそこまで多くないのをいいことに。
あたしは全てのメニューをコンプリートしている。
ワッフル専門店だからどのメニューも必ずワッフルが付いてくる。
クレープに乗っかってるのもあるし、パフェもある。
ジュースだけを頼めば少量の生クリームと一緒にワッフルも。
ジュースはコンプリートしていないけど、とにかくワッフルは全て食べた。
ポイントカードがあるけど、それももう10枚を超えている。
もちろん今日もポイントを貯める。
1枚全て貯まると、1つの商品がタダでもらえる。
貯まったらすぐに使いたい気持ちもあるけど、金欠でどうしても食べたい時のためにとってある。
既に10個は無料で食べられるということを考えるとよだれがたれそうだ。
「生クリームかぁ、無難やね」
「他のも全部食べたけど、やっぱ生クリームが1番だったよ!」
「す、すごいな…。
ん〜じゃ生クリームにしよ」
「あたしも!」
結構引いてたけど、ワッフルを目の前にすればなんにも怖くない!
いよいよお店の中に入った。
「あぁ…いい香り…」
ワッフルのいい香りに酔いしれながら注文列に並ぶ。
いつもまぁまぁ並んでいるフラボンは女子中高生に人気のお店で、たまにテレビで取り上げられている。