彼はお笑い芸人さん
と思ったのも束の間。
「早くー次、代わって代わって代わって!」
「まーだっ」
「こーき、対決しよーぜ、対決!」
また力ずくの奪い合いを始めた二人と、比較用に置いてあるアナログなモップを手に取り、水槽をジャブジャブし始めた一番年上の子。
なんてヤンチャな三人組なんだろう、手に余る。
「駄目、だーめ、危ないよ! あっ、そんなに水跳ねさせたら、服濡れちゃうよ! ちょっ、ちょっと、一回ちょっと、ストップしよっ」
子供たちのはしゃぎっぷりが人目を引きはじめたこともあり、一旦クールダウンさせようと止めに入る。
これ以上ぎゃあぎゃあされたら、私もヒートアップしそうだ。大人げなく。
てか親ああぁ!
放置しすぎでしょ!
「はい、もうお終い」
少し厳しく言って取り上げると、えーっと言いながらも手を離してくれた「こーきくん」にほっとした瞬間、どんっと体当たりしてきた「しゅんくん」に奪われた。
がくんとパンプスでよろめく。
「っ……」
それはまるでスローモーションに見えた。
しゅんくんが上に向けた洗浄機の先から、ブシャーっと勢いよく水が発射された。
「軽量コンパクトで楽々操作」という売りが仇になったらしい。
楽々と発射された高圧の水は、近くに立っていた男の人を直撃した。
それが、透琉くんだった。
ズババババっと撃たれるように放水された透琉くんは、ブルーシートの上にずしゃっと尻餅をついた。
やらかしてしまったしゅんくんは、茫然自失。
やばいと思った瞬間、操作レバーから手を離したようだけど、時すでに遅しだ。
「お、おい小西っ! お前、何やって……」
上司の田川係長が、顔面蒼白で駆けつけてくる。
あまりの出来事に数秒フリーズしてしまっていた思考回路が、ぱっと回復した。
「すすっすみませんっ! おお客さまっだだ大丈夫……じゃないっですよね!?」
びしょ濡れのお客様を助け起こそうとして、さらに自分の目を疑った。