彼はお笑い芸人さん

 歯が浮くようなお世辞を言って、柔和な笑みを浮かべるぐんちゃんは、やっぱり昔とはちょっと違う。
 それもそうか。一年経ったんだもんな。

 単に月日が流れたというだけじゃない。
 ぐんちゃんが身を置く世界は、変化が著しいから。変化して適応していかないと、すぐに取り残される。

「やだなあ。彼女が綺麗すぎて、目が麻痺してるとかじゃなくて?」

 モデル出身の女優さんとぐんちゃんとの熱愛が報道されたのは、二ヶ月ほど前だ。
 ぐんちゃんは完全否定していたけれど、相手方は「良いお友達です」と含みを持たせるコメントを発表していた。

 本当のところ、どうなんだろう。
 本人を目の前にしたら、つい好奇心がむくむくと。

「彼女?……ああ、浅倉さん。あれはただの……話題作りですよ。向こうさんの」

 照れることもなく、面白くなさそうに言って、ぐんちゃんは穏やかに苦笑した。

「まあ、景気はいい方がいいですしね」

 熱愛報道から飛躍した景気の話に、脳みそが置いてけぼりになってしまう。
 まあ分かったことは、

「何だ、ガセネタかあ。ぐんちゃんのお眼鏡にかなう人が現れて、良かったなあって思ったのに。ぐんちゃん、すごいモテるのに、全然そういう話聞かなかったから」

 もったいないなあと思う。

「それは透琉の手前、俺が恋愛にうつつ抜かしてるわけにはいかないですから」

 持ち出された名前に、心臓がどくりとした。

 ぐんちゃんが突然会いたいと連絡を取ってきたのは、やっぱり透琉くんが関係している話だとは思ったけれど。切り出す勇気が出なかった。

「……透琉くんの手前って?」



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