彼はお笑い芸人さん
「透琉が菜々香さんと別れたとき、アイツは決断を迫られてました。事務所の社長から申し渡されたんです。最低でも一年間は、浮つかずに必死で仕事しろって。遊びも恋愛も自粛しろ。本気でやっていく気があるんなら、態度と実績で示せって。それが出来るなら、もう一度後押ししてやるけれど、ラストチャンスだぞって」

ベンチに腰掛けている膝の上、置いた両手を軽く握り、ぐんちゃんはまるで懺悔のように言った。

「俺、アイツに確認したんです。とーぐんの将来、潰さないよな?って。……それは暗に、菜々香さんと別れてほしいって言ったことになります。『遊びも恋愛も自粛』が社長から提示された条件でしたから。菜々香さんと透琉を引き離したのは、俺です」

透琉くんが私と別れたことに、まさかぐんちゃんが責任を感じているとは思いもしなかった。

「ううん、違うよ。ぐんちゃんは聞いただけでしょ? 決めたのは透琉くんだもん。私もね、思ったんだ。もしあのとき私が、私を選んでって言ってたら、違ってたのかなあって。でもね、誰が何と言おうと、やっぱり透琉くんはお笑い辞めなかったと思う。好きなんだもん。私も好きなんだもん、好きなことしてる透琉くんが」

だからぐんちゃんには、感謝してる。
透琉くんが一番輝く場所は、ぐんちゃんの隣だから。

「ありがとう、ぐんちゃん」

ずっと自責していたんだろうか。
それをわざわざ言いに来てくれるなんて、律儀なぐんちゃんらしい。


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