彼はお笑い芸人さん

 顔を上げたぐんちゃんが、私を見た。

 公園の木陰から漏れる陽射しが、キラキラと降り注ぐ。
 光と陰影のコントラストが、ぐんちゃんの端正な顔立ちをより際立たせる。

「……菜々香さんは……」

 ぐんちゃんは言いかけた言葉を飲み込んで、思い直したように言葉を繋げた。

「今、幸せですか?」

 随分ざっくりした質問だなあ。

――――私は幸せ?

 少し考えて、答えた。

「うん」

「そうですか……良かったです」

 ぐんちゃんは微笑して、さらに変わった質問をした。

「じゃあテレビで透琉を見ても、チャンネル変えたりとかは?」

「しないよ。笑って観てるよ。とーぐん、好きだもん」

 テレビの中の透琉くんは、笑ったり怒ったり、情けなかったり、気取っていたり。
 くるくる色んな顔を見せてくれる。

 別れた直後は見るたび胸が痛んだけれど、だからといって見たくないと思ったことはない。

 好きな人の姿は見ていたい。

 別れてからも、好きな人を好きなだけ見ていられる私は、幸運だと思う。

 例えば相手が普通の人ならば、メディアに露出するような仕事をしていなければ、一目見たい、声が聞きたい、笑顔を向けてほしいと願ったところで、叶わない。
 叶えようとしたら、ストーカーになってしまうかもしれない。

 だけど私はテレビ越しに、誰に迷惑をかけることなく透琉くんを堪能できるし、応援できる。
 透琉くんの頑張りを見て、私も頑張らなくちゃと思う。


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