彼はお笑い芸人さん


「大ファンだよ、応援してる。もし透琉くんが気にしてるなら、そう伝えて」

「俺からも、伝言があります。来週の『笑イト』、絶対観て。漫才特集で、俺らが出ます。特別生放送枠です。……ライブ中継、やっと出られるんです。この意味、分かりますか?」

“ライブ中継、やっと出られる”

「……あ、」

 そういえばこの一年、透琉くんはピンからキリまで、質を選ばず沢山の仕事をこなしてきたイメージだけれど、生放送や、一発本番のような仕事は皆無だった気がする。
 舞台挨拶という収録のきかない仕事をドタキャンしてしまって、事務所から謹慎を受けたのが一年前。

 社長に侘びを入れて、提示された条件を呑んで「制裁」を解いてもらった透琉くんだけれど、一つだけ解禁されていないことがあったのだ。

 生放送出演。

 それがようやく認められたということは、この一年の頑張りが実を結んだということだ。

「良かった……おめでとう、本当に良かったね。ぐんちゃんも透琉くんも、いっぱい頑張ったもんね」

「頑張ったのは、透琉ですよ。それとアイツの人望ですね。アイツ、ADとか現場スタッフとかに、すげー好かれるんですよね。先輩にも後輩にも、仲間にも。世間からバッシング浴びて干されてたときにも、周りからのフォローに、すげー救われました」

 ああ、それはよく分かる。

 透琉くんは天真爛漫だけど、傍若無人ではない。裏表がなくて、誰にでも気さくだ。
 偉い人に媚びて下の人間に威張るということもなくて、先輩はちゃんと立てるし後輩には優しい。

 私にも、最後まで優しかった。



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