彼はお笑い芸人さん
足のギプスが取れて、松葉杖とお別れした透琉くんは、浮かない顔で私に会いに来た。
「わあ良かった、取れた。何かすごくサッパリしちゃったねえ。お医者さんも大丈夫って?」
「うん、もう全快バリバリ。骨って折れると太くなって再生されるから、前よりレベルアップしちゃってるって噂」
自由になった右足を上げて見せ、透琉くんはエアーリフティングを始めた。
ほいほいと軽快なパスを繋げ、うちの玄関を抜け、リビングでテレビに向かってシュートを放った。
そして、派手なガッツポーズと勝利ダンスを決める。
相変わらず、オフでもふざけてる。
プライベートで、観客が私一人でも、全力で楽しませてくれようとするサービス精神。
「透琉くんって、本当に面白いよね」
私一人が楽しませてもらうのは、もったいない。
透琉くんには、たくさんの人を笑顔にできる才能があるし、そうしてこそ透琉くんも輝く。
「えっ何。怖い怖い。本当に面白かったら、そんな渋い顔して言うかな? 新手のダメ出し?」
丸い目をキョトンとさせて、無邪気な犬のように私の顔を覗き込む。
この愛嬌の良さも、風貌の良さも、ファンに愛される理由。
「違う。本当に面白いなって思う」
そして、好きだなとも思う。
「ホント? 身内贔屓じゃなくて?」
う~ん、そう言われちゃうと。
彼女目線が入っちゃってるのかなあ?
「あっ最初に、初めてとーぐんの漫才見たとき、すっごい面白いって思ったよ。あの放水直撃事故のとき。アドリブであれだけ喋れるなんて、天才だって思ったし。お客さんも演出だって信じちゃうくらい、上手だったもん」