彼はお笑い芸人さん
必死なフォローに聞こえたのか、透琉くんはくすりと笑った。
「ん、ありがと。……あれさあ、今だから白状するけど。菜々ちゃん目当てで、行ったんだよねえ。あの展示会。まあ、まさか放水されるとは思わなかったけど」
「え?」
私目当てって?
「実はさあ、菜々ちゃんのこと、あの前から知ってたんだよねー。ひそかに見かけてて、ずっと気になってたの。結構しつこく気になってたら、群司が教えてくれたんだよね。菜々ちゃんの会社が、展示会に出展するらしいって。もしかしたら会えるかもって思って、行ったわけ」
ラジオ体操姿を見られていたことは、ぐんちゃんに聞いたけれど。
まさか、それからずっと気になってくれていたとは。
「偶然じゃなかったんだ……」
何それヤバイ、嬉しくてにやけちゃう。
これからの決意が、少しだけ揺るぐ。
「うん。まさか付き合えるとは夢にも思ってもなかったけど。俺って超ラッキー。そりゃあ水も浴びちゃういい男だし? アドリブで漫才できちゃう、天才スーパーな漫才師だし?」
「うん」
「いやん、菜々ちゃんったら。ボケ殺し」
おどける笑顔に、いつもの冴えがない。
透琉くんもきっと、今日は言いに来たんだ――――別れを。
微妙な沈黙が生まれる。
「……俺さあ、自覚あるんだよね。今は結構チヤホヤされてるけど、それは若いからっていうか、ニューフェイス感があるからっていうか……ルックス売りにして、きゃあきゃあ言われんのも、今のうちだけだよなあって。この前、アイツ――岩崎悠ちゃんに言われたこと、結構グッサリきちゃってさあ。だってホントのことだし。『芸人のくせに大して面白くない』『アイドルみたいにきゃあきゃあ言われて』『ふざけてる』」