彼はお笑い芸人さん


 まるで打ち合わせされていたかのような流暢な漫才が、聴衆を魅了していく。
 最初はただ唖然としていた人たちも、自然と笑い声を立てている。

 騒然としていた場の空気が一気に和み、泣きそうになっていた子供たちも笑っている。
 テレビの人? げーにんさん! 何でやねんと口々に囃し立てる。


「ハイっ、ありがとうございましたー」

「期待の若手漫才コンビ、とーぐんのお二人でしたー。五月五日子供の日、ベリカ劇場にてお笑いライブを決行しまーす。観に来てね♪」

 クールなキャラだと思っていた眼鏡さんが、可愛らしいお願いポーズで最後の笑いをとって、ゲリラライブは終了。時間にすると、多分数分。

 拍手が巻き起こり、口々に感想を述べながら立ち見客が去っていく。

「あー、びっくりした」

「何だヤラセかよ、マジでびびったし!」

「ブラ男、マジもんかと思ったよな」

「すげーな、演出。宣伝、鬼」

 どうやらみんな、高圧洗浄気の放水直撃事故は「演出」だったと思い込んだようだ。

 それくらい、とーぐんの漫才は自然で完璧だった。



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