彼はお笑い芸人さん
芸人さんより愛をこめて
そうひそかに決意したものの、やっぱり無愛想な英課長との距離はなかなか縮まらず、今に至る。
ごめん、森さん。
とーぐんのストラップを見ては、申し訳なく思う。
けど、やっぱ可愛いなあ。このチビキャラ透琉くん。
こっそりにまつきながら、帰り支度をして更衣室を出たところで、英課長とばったり会った。
今日の課長は朝からずっと会議に出ていたため、初めて顔を合わせた。
「小西さん、帰るところ申し訳ないけど。顧客リストのデータ化、進捗状況報告して」
「はい、バッチリ終わってます! 今日の業務報告メールに、データファイル添付してます。ご確認、よろしくお願いします」
提出期限は金曜だと告げられていたけれど、ギリギリで終わらせる自信がなくて、早めに済ませておいた。
良かった。胸を張って答えると、課長の表情が幾分和らいだ。
「そうか、早いな。助かる。急遽明日必要になったから、すぐ確認する。元のデータは?」
「……あっ」
ががーん! 忘れてたあああ!!
「何?」
「あの、元のデータって、あの集計用紙ですよね?」
「他に何がある?」
「家です。家に、忘れてきました」
「はあ!? 家って何だ、自宅か?」
他に何があります? なんて返せるわけもなく、
「はい、すみません! 明日、必ず!」
コメツキバッタのようにぺこぺこ謝る。