彼はお笑い芸人さん


 使い方は何となく知っているものの、使ったことがない「フルセグ」のアプリを起動させる。

 テレビはテレビの画面で、ゆったり家で観たい派の私は、フルセグ視聴してまでテレビを観るという考えが今までなかった。
 今日の笑イトも、まあ家に着いてからゆっくり録画を観ればいいかと、半ばそう思いかけていたのだけれど。


“俺からも、伝言があります。来週の『笑イト』、絶対観て”

 ぐんちゃんからの伝言。
「伝言」だとぐんちゃんは言った。

 透琉くんからのメッセージだ。

“来週の『笑イト』、絶対観て”

 観ないでとは言われても、絶対観てなんて言われたことはなかった。
 それほど今日の「生中継ライブ」は、透琉くんにとって節目となる舞台ということだ。

 この一年間の透琉くんの頑張りが、あらゆる人に認めてもらえた証。
 なのに、私が認められなくてどうする。

 透琉くんは、もう決して手の届かない、遠い遠い国の王子様なのだと。
 ある日ひょっこり白馬に乗って、迎えに来てくれるかもしれないなんていう淡い幻想は、今宵ばっさり断ち切ろう。

 よし映れ、スマホ―――んんっ? 

 データを受信できませんって……何故に!?
 国が遠すぎて? いや、実質距離的には近いはずだ。同じ都内じゃん!



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