彼はお笑い芸人さん


 さすが有名ビル。

 最上階の展望台フロアから一望する夜景は、素晴らしく美しかった。
 フロアの格調も高く、優雅な趣がある。ホテルのロビーみたい。

 ただね、

「……何で映らないんだよー」

 こんなに高い地点まで来たのに、やっぱりワンセグは「受信できません」
 よほどピンポイントで、電波が届かない場所にいるんだろうか?

 今日はほんとにツイてない。がっくしだ。

 はあ~もう帰ろう……

 しばらくぼーっと夜景を眺めていたけれど、そろそろこのビルも閉館だろうし。
 帰ってお風呂入って、それから録画してる笑イトを観よう。

 ごめんね、透琉くん。
 せっかくわざわざ知らせてくれたのに、私がドジなせいで間に合わなかった。


“菜々ちゃん、俺間に合った?”

 ふいにフラッシュバックする、記憶の中の透琉くん。

 ああ、そうだ。
 透琉くんはいつだって、ちゃんと間に合ってくれたのに。

 気持ちが弱っているときや思わぬピンチのとき、いつだって救ってくれたのは透琉くんだった。

 会いたい。
 会いたいよ、透琉くん。

 電波に乗せられた映像の透琉くんじゃなくて、美化して閉じ込めた想い出の宝箱の中でじゃなくて。
 本物の、呼吸してる、体温を持った透琉くんに、会いたいよ。

 たまらなく感傷的な気持ちになってしまったとき、スマホが鳴った。


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