彼はお笑い芸人さん


 そのメロディに耳を疑う。
……嘘……まさか、そんなわけない。

 私のスマホをこの曲で鳴らせる人は、一人しかいない。そう設定されたままだから。
 だけど、その人であるはずがない。

 だって、今は……テレビに生出演中のはず。
 だけど、ディスプレイに表示されている名前も紛れなく、


「……透琉くん?」

 半信半疑で呼びかけると、

「菜々ちゃん?」

 懐かしい響きが、胸を貫いた。

 本当に透琉くんだ。ありえない。
 いったい、何がどうなって……

「俺と、結婚してくれますか?」

――え?
 なな、何て言った? け、結婚!?

「僕と結婚してくださいませんか」

「な、何で、そんなっ…いきなり?」

 夢みたい。

 夢みたいすぎて、まったく意味が分からない。
 やあ元気?とか、どうしてる?とか、まずはそこからじゃなくて?

 どうしていきなり、プロポーズ?


「え?……っと、テレビ観てくれてる、よね?」

 う、それを聞かれると……

「………ごめん、観てない」

 一瞬の間を挟んで、透琉くんがおちゃらけた口調で言った。

「どっひゃあ~、出直してきます!」

 その瞬間、静寂を打ち破るような、賑やかな音の波がどわわわっと鼓膜を覆いつくした。
 何これ、超賑やか。

 もしかして……生放送中!?

 唖然としている間に、通話は一方的に切れた。




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