彼はお笑い芸人さん
家に帰って、いの一番にテレビを点けた。
笑イトの録画を観て、事の真相を把握した。
漫才のオチとして、透琉くんが本当に私に電話してきたのだと。
“来週の笑イト、絶対観て”
私が観ていることを前提として。
“…………ごめん、観てない”
うわああ、何て返しをしてしまったんだろう。
相当酷い女だよなあ。
あのプロポーズ、本気?……だよね?
あまりに突然で、劇的で、いまだ信じがたい気持ちはあるけれど。
電話をかけているときの透琉くんの、ひどく緊張している表情や、
“俺と、結婚してくれますか?”
あの真剣な響きは、本物だ。演技やネタじゃない。
そんなことは録画再生してみなくたって、透琉くんの声色で分かったはずなのに。
アドリブ弱いなあ、私。
心構えができていないと、意思表示もできないなんて。
それに臆病者だ。
もっと沢山の前置きをしてくれないと、いきなり結論に至られると、分かりきっている答えでさえ、間違っているんじゃないかと不安になる。
一晩寝ると、まるで夢だったようにも思えた。
だけど通勤途中のコンビニで、目に飛び込んできたスポーツ紙の一面にババンと書かれてあって、突如実感が沸いてきた。
“俺と、結婚してくれますか?”
うっわあああ、どうしよう。プロポーズ!
しかも全国放送!
「仕切り直してプロポーズすると見られ、正式な発表は後日所属事務所を通じて行うとのこと」なんて書かれてあると、めちゃくちゃ心構えが出来てしまうんですけど。