彼はお笑い芸人さん


 家に帰って、いの一番にテレビを点けた。
 笑イトの録画を観て、事の真相を把握した。

 漫才のオチとして、透琉くんが本当に私に電話してきたのだと。

“来週の笑イト、絶対観て”

 私が観ていることを前提として。

“…………ごめん、観てない”

 うわああ、何て返しをしてしまったんだろう。
 相当酷い女だよなあ。

 あのプロポーズ、本気?……だよね?
 あまりに突然で、劇的で、いまだ信じがたい気持ちはあるけれど。

 電話をかけているときの透琉くんの、ひどく緊張している表情や、

“俺と、結婚してくれますか?”

 あの真剣な響きは、本物だ。演技やネタじゃない。
 そんなことは録画再生してみなくたって、透琉くんの声色で分かったはずなのに。

 アドリブ弱いなあ、私。
 心構えができていないと、意思表示もできないなんて。

 それに臆病者だ。

 もっと沢山の前置きをしてくれないと、いきなり結論に至られると、分かりきっている答えでさえ、間違っているんじゃないかと不安になる。

 一晩寝ると、まるで夢だったようにも思えた。
 だけど通勤途中のコンビニで、目に飛び込んできたスポーツ紙の一面にババンと書かれてあって、突如実感が沸いてきた。

“俺と、結婚してくれますか?”

 うっわあああ、どうしよう。プロポーズ!
 しかも全国放送! 

「仕切り直してプロポーズすると見られ、正式な発表は後日所属事務所を通じて行うとのこと」なんて書かれてあると、めちゃくちゃ心構えが出来てしまうんですけど。



< 147 / 161 >

この作品をシェア

pagetop