彼はお笑い芸人さん
芸人さんと、新しい朝
「透琉くん、おはよう。朝だよ」
しゃあーっとカーテンを勢いよく開ける。
射し込む朝日の眩しさに、むくりと頭をもたげた透琉くんが、薄目を開く。
そして、ばっと大きく見開いた。
「……な、菜々ちゃん?……夢?」
寝癖のついた髪に、むくんだ瞼、赤く充血した瞳。
完全に「飲んだ次の日」の顔で、声も掠れている。
「テレビ用」ではない、素でだらしない透琉くんを見られるのも、嬉しいことなんだと実感する。
それは寝顔を観察しながらも、心ゆくまで噛みしめた感情だ。
そばにいたい。
触れたい、キスしたい、好きだと伝えたい。順序はでたらめだけど。
まるで眠り姫のようにすやすやと寝息をたてる枕元に、両膝をついて長い間眺めていた。
まるでお預けをくらった忠犬の気分で。
呼びつけておいて、待たずに寝ちゃうんだもんなあ。
しかも案の定、記憶に残っていないらしい。
「『続きは久遠邸で』……始めるよ?」
「えっ何、えっと、俺……」
頭をわしゃわしゃっと掻き上げて、慌てて記憶を遡る透琉くんを尻目に、ぴしっと背筋を正した。
「ちゃ~んちゃちゃちゃちゃちゃ、ちゃ~んちゃちゃちゃちゃちゃ……」
突然リズムを取りながら歌い出した私に、透琉くんがぎょっとする。
「まずは両手を大きく伸ばして~」
背伸びの運動。
耳馴染んだフレーズに、身に染み付いた動作。私の日課。
ラジオ体操第一を踊りきったところで、唖然として固まっている透琉くんに向き直った。