彼はお笑い芸人さん
芸人さんの芸の肥やし
殊勝な彼女でいようと決意を固めた鳳宝軒デートから、二週間後。
四日ぶりに透琉くんから電話がかかってきた。
「菜々ちゃん、お疲れ様んさ。何してる?」
「んっと、お風呂から出たとこ」
「えっ、じゃあ今タオル一枚? パンツ一丁?」
変なとことでテンションが上がる透琉くんに若干引いていると、さらに変態ちっくな質問がなされる。
「お嬢ちゃん、パンツ何色? ハァハァ」
「パジャマ着てます。てか電話切ってい?」
「やん、嘘ウソ! あのね、菜々ちゃん。お願いがあるんだけど……」
「お願い?」
パンツの色、教えてじゃなくて?
「今日の、『笑イト』絶対観ないで」
「えっ、何で?」
笑イト――『笑って愛しい人』は、毎週水曜日の午後十時からテレビ放映されている、バラエティ長寿番組だ。
人気芸人さんを固定メンバーとして、一年更新で準レギュラーの選出がある。
いわば若手の登竜門で、とーぐんはこの春に準レギュラー入りを果たした。
透琉くんの活躍に複雑な心境を抱くようになってから、バラエティ番組を観ることから少し遠ざかっていたから、先週の放送は見ていない。
今日も観るか観ないか未定だったけれど、観ないでと言われると気になる。
「えっとね……面白くないから。笑って愛しい人、なのにね。笑えないと思うから」
電話の向こう側、ふっと自嘲気味に笑う気配がした。