この冬が終わる頃に
冬
最寄りの駅から歩いて、一〇分。大通りから外れた住宅街を自宅に向かって歩く。
大きな間隔をあけて立つ外套は、薄暗く、通りに面した家の窓から零れる明りがやたら眩しかった。
ふわふわと漂う夕食の香りとお風呂の石鹸の香り。何処か懐かしく、私の胸にツンと針の先を落とす。
明りが零れてくる窓の向こう側が、酷く恋しい。
少しだけ立ち止まって見上げた窓の手前を、私の真っ白い息が曇らせていった。
冬はいけない。
冬は、心の一番危うい場所を抉っていく。素肌をむき出しにした木も、土だけが残る花壇も、星まで何も存在しない夜空も、酷く生き物を恋しくさせる。かじかみそうな指先が、血潮の温もりを探して震える。
冬は、いけない。生き物を弱らせる。私を酷く孤独にさせる。
明りのつかない自分の家に帰ってくることに、慣れなくなったのはいつからだろう。
胸の内のわだかまりを零すことなく、呑み込むと、私は勢いでベッドに倒れ込む。枕に顔を埋めながら、ため息を吐いてみる。
いったい、いつまでこの毎日を繰り返せばいいのだろうか。
そんな、答えの出ない自問自答を繰り返すばかりの自分にうんざりする。
目をつむればすぐに眠ってしまいそうだった。
いっそ、もう、何も考えずに闇に溶けてしまいたくて、私は瞼に襲ってくる重力に従うことにした。
この冬が終わる頃に