この冬が終わる頃に
そう言って、私の顔に伸ばされた甲斐田の掌をはねよけようとしたのだが、私はそれがうまくできなかった。
あ、なんかおかしい。
「ほら、やっぱり熱がある。」
ひんやりとした甲斐田の掌が、私の頬に触れる。その掌が、すごくひんやりとしていた。
それから、甲斐田は自分の額と私の額交互に、触ると、満足げに、やっぱり、と言った。
「平熱高い僕より、熱いとかおかしいですから。」
言い返そうと思うのだかが、頭がうまく回らない。
頭の中に、重たい膜が貼ったようで、言葉が浮かんでも来なかった。
酷く思考回路がぼんやりとする。ここがどこで、今、額に手を触れている人間が誰で、この後のことも、全てがどうでもよかった。
「先輩?やっぱり少し、休んだ方が……。」
「うるさい。だったら誰が、このたまった仕事するのっ!」
また失敗してしまった。
甲斐田が硬直しているのが見える。知っている、ただの八つ当たりだ。
前髪をかき上げながら、小さく、ごめん、と返した。少し黙って欲しかった。少し放っておいて欲しかった。ただ、気付いてくれたことは、すごく嬉しかった。しかし、言葉に紡ぐのも億劫だった。どうかしている、そんな自分にひたすら嫌悪感が募る。
「ごめん、甲斐田くん、ちょっと考えたいから、自分の仕事をしてて……。」