この冬が終わる頃に
甲斐田の視線と、ばちんと音を立てて、私の視線がぶつかった。
いつになく、真剣で強い口調だった。
「そうね、ついて行ってもいいけど、その時は甲斐田くんが社長さんよね?社長さんにも、私、先輩って呼ばれることになるのかしら?どっちが上司なのか、分からない感じになっちゃいそうね。」
可能性はゼロに近い空想の話のようだった。
小さなオフィスに私と甲斐田で、あと数人アシスタントを雇って、好きな仕事をする。
こそばゆくて、きっと楽しいだろう。そういう、未来もあり、か。
「先輩、その時は、その、先輩とか上司とかじゃなくて、僕の……。」
顔を真っ赤にして、少し焦った口調で、甲斐田は何故か立ち上がった。
必死な甲斐田が少しおかしくて、私は笑ってしまう。
そんな私に、甲斐田は一瞬、むっとした表情をよこし、静かに椅子についた。
「でも、僕が独立するような凄い男になったら、先輩はついてきてくれるって、ことですよね?」