カッパァ華
二人が病室に入った時には、すでに母親は息を引き取っていた。



政吉を見た医師が静かに話しかけて来た。



「旦那様ですね……さきほどお亡くなりになられました。最善を尽くしましたが力及ばず……」




「…………家内は……家内は、最期は苦しまなかったのですか……」



涙をこらえ、言葉を懸命に出している政吉の姿がそこにはあった。



「はい。苦しまず安らかな表情でした」



「そうですか……長い間……ありがとうございました……
長く妻を見ていただき、ありがとう……ございました……」



秀樹は、母親の側に駆け寄り、ずっとずっと母親に呼び掛けていた。



「おかん! おかん! なに寝たふりしてんだよ! なぁおかん!
早く目を開けてや! なぁおかん!
約束しただろ! 元気になって、帰ってくるって……
なぁ……」




「秀樹……」



政吉は静かに、そして力強く秀樹を抱き締めていた。


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