一人の狼
 人里から離れた山の中を雪が視界を遮るように吹き荒れている。

 その白の世界の中に、灰色の狼の群れがいた。数は十匹程度といったところだろう。冬にもなり彼らの餌となる獲物はあまり姿を見せず、何も食べない日が続いていた。仲間がどんどん餓死していくなか、彼らはそれを定めと受け入れるしかなかった。


「おい、なんかいい匂いがしないか」


 一匹の狼が言う。だが周りに同意の声はない。

 それを確認したかのようにもう一匹、一回り大きな狼が彼と向き合った。おそらく群れのリーダーであろう。


「本当か?」


 狼は小さくうなずいた。他の狼たちはその二匹を見守るように囲み、座って答えを待つ。

 しばらく考え、


「わかった、信じよう」


 答えた。その答えを聞くと最初に言った狼が先導して他の狼たちが続く。
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