一人の狼

 しばらく歩き続けると、茶色い毛をした兎が倒れているのが見つかった。もう死んでいるのだろう、兎はまったく動かない。

 兎に駆け寄る狼たちがいるなか、リーダーは立ち止まり近くにいる狼に話しかけた。その狼は最初に匂いを嗅ぎつけた狼だ。


「おい、なんか変じゃないか?」

「何がだ?」


 その問い返しに明白な答えを返すことができず、押し黙る。他の狼たちは兎の傍まで行くと振り返り、彼を待った。リーダーが一番最初に食べるというのは、掟だからだ。

 だが彼は、


「いや、俺はいい。お前らで食べてくれ」


 そう言った。それを聞いた仲間はどうするかと問う形で顔を見合わせる。 そして一匹が食べ始めるとそれに続いて他の狼も食べ始める。

 彼はその様子を見守った後、まったく違う方向を向いた。 その先から嫌な予感がしてくる。


「なんか臭わないか?」


 彼を心配してか、獲物に目もくれず傍にい続けていた狼が返す。


「肉の匂いか?」

「いや、違う」


 怪訝そうな顔で狼は鼻を動かし、辺りの臭いを嗅いだ。だが彼の鼻には獲物以外の臭いは入ってこない。


「何もしないが」

「そうか……」


 狼に顔を向けず、生い茂る木々の奥を見つめたまま答えた。雪は降り続いていたため、あまり奥まではっきりとは見えない。

 気のせいかとも思った。だが臭いは次第に強くなっていく感じがあった。

 臭いが強くなるにつれ答えが見つかりそうな気がした。何かが焼けるような、その臭いの答えが。


「気のせいだろ」


 近くにいた狼が言い、仲間の下へと歩み寄る。

 その時、彼が見続けていた木々の奥で何かが数発光を見せた。


「戻れ!」
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