MIND ART
「じゃあ、おじいさんも心の絵を持ってないの?」

私が聞くと老人は悲しそうな顔をして

「いや、私はいま82歳でね、日本の男性の平均寿命を超えているんだ。
だから、捕まって、殺されることになった。
今はその執行猶予中だよ
連中は「平均」が好きでね
それ以上も以下も許せないらしい」

「えっ……」

私が何も言えないでいると老人は続けた。

「さあ、そろそろ迎えが
来る。君たちはここにいたら危険だ。捕まってしまう逃げてくれ……
さようならだ。最後に、
君たちと話せて良かった」

例えようのない悲しさと、恐怖が襲ってきた。
このまま逃げていいの
だろうか?

「日……どうすれば
いいのかな?」

私が日の方を見ると日は
老人をじっと見つめ
はっきり言った。

「じいさん!必ず助けに
戻ってくる。だからもう少しここで待っててくれ
絶対に戻ってくるから」

老人は「わかった」と
微笑んだ。
私は、日に手を引かれまた走り出した。
振り向く勇気は無かった。
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