空とシャボンとさくらんぼ



熱が……主に顔の熱が冷めてからあたしはゆっくりと教室に向かった。


次の授業までまだ時間はある……と思う。


だから急がず慌てず。


桜坂くんに言われた通り、急には動かずにゆっくりと歩く。



がら、と扉を開けてまず視線がいったのは桜坂くんの席。



今日も来てる。


隣のクラスのダークブラウンの人。


なんの話してるんだろう……?


すごく楽しそう。


少し、ほんの少しだけ、羨ましいなぁと思ったり、思わなかったり。


何に対して羨ましいのかは分からないけど。


とにかく、ちょっと羨ましいかも。



扉を閉めて自分の席に向かう。



「あれ?」



何これ?



あたしの机の上にはサイダーが置かれていた。


誰かがあたしの机の上に忘れたのかな?


それにしてはまだ開けた感じもない……



触ってみるとまだひんやりと冷たかった。



まさか……


ちらりと前の桜坂くんを見る。



桜坂くん……だったりして。


いやいや、考えすぎでしょ。


でも他に考えられない……真琴は今日いないし。



再びちらりと目をやるとぱちりと目があった。


桜坂くんはサイダーを指さして、そのあとおでこをさす。



……うん?


あたしが首を傾げると口ぱくで『ひ、や、せ』と言われた。



ひ、や、せ……冷やせか。


もしかして、気を使ってくれたのかな?


まさか、ね……でも………



あたしも口ぱくで『ありがとう』と伝えてみる。


届いたかどうかは分からないけど、多分届いたはず。


言ったとき、桜坂くんが微かに笑ったから。



そのあと桜坂くんはあのダークブラウンの人との話に戻ってしまい、もうこっちには目を向けなかった。


寂しいとちょっと思ったけど、これでよかった。



だって、あたしの顔、さっきと同じぐらい熱い。


これもきっと、夏のせいなんだから……





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